冷却ファンのカタログには「最大風量 50 CFM」「最大静圧 3.5 mmH2O」のように2つの数値が並びます。この2つは別々の性能ではなく、同じ1本の曲線上の2つの端点です。ここを誤解すると選定を間違えます。
風量とは:単位時間に動かせる空気の体積
風量は1分あたりに送れる空気の量で、m³/min や CFM(立方フィート/分)で表します。1 CFM ≒ 0.028 m³/min です。筐体を冷やす能力そのものに直結する値で、発熱量と許容温度上昇から必要量が計算できます。
ただしカタログの最大風量は「静圧ゼロ(抵抗がまったくない状態)」での値です。実際の筐体には必ず吸排気口・フィルター・基板・フィンがあり、抵抗が発生します。
静圧とは:通気抵抗に打ち勝つ圧力
静圧は空気を押し出す圧力で、Pa や mmH2O(1 mmH2O ≒ 9.8 Pa)で表します。フィルターが詰まる、吸気口が小さい、フィンの間隔が狭い、ダクトが長い——こうした条件ほど高い静圧が必要になります。
静圧が足りないと、ファンは回っていても空気がほとんど流れません。「ファンは動いているのに筐体が熱い」というトラブルの典型原因です。
P-Q曲線の読み方
ファンの性能は「風量−静圧曲線(P-Qカーブ)」で表されます。
- 曲線の右端:静圧0のときの最大風量
- 曲線の上端:風量0のときの最大静圧(締め切った状態)
- 曲線の途中:実際に使われる領域
装置側にも「システム抵抗曲線」があり、これは流量の2乗に比例して圧損が増える曲線です。ファンのP-Q曲線とシステム抵抗曲線の交点が「動作点」=実際の風量になります。
つまり、いくら大きなファンを付けても、筐体の抵抗が大きければ動作点は左(低風量)に寄ります。冷却性能を上げたいときに最初に見るべきは、ファンの容量ではなく筐体の通気設計です。
よくある3つの誤解
誤解1:最大風量で設計する
最大風量は抵抗ゼロの値です。実際の動作点は最大風量の50〜70%程度になることが多く、これを見込まずに設計すると風量不足になります。
誤解2:大きいファンなら必ず冷える
開口が狭ければ、大きいファンは静圧側で失速して風量が出ません。開口を広げるほうが、ファンを大きくするより効果的な場合が多くあります。
誤解3:静圧は大きいほど良い
高静圧型は一般に高回転・高騒音・高消費電力です。抵抗が小さい筐体に高静圧ファンを付けても、騒音とコストが増えるだけで冷却は改善しません。
高静圧が必要になる条件
- フィルター付きの吸気口(粉塵環境・クリーンルーム)
- フィンの間隔が2mm以下の密なヒートシンク
- ダクトで離れた場所へ送風する構成
- 吸排気口の面積がファン開口より小さい筐体
- 密閉度が高く、空気の逃げ道が少ない筐体
このような条件では、軸流ファンより遠心式ブロワーファンが有利です。構造の違いは軸流ファンと遠心ファンの違いで解説しています。
実務での確認手順
- 発熱量から必要風量を計算する(風量 ≒ 0.05 × W ÷ ΔT)
- 筐体の通気抵抗を見積もる(開口面積・フィルター・フィン)
- 候補ファンのP-Q曲線にシステム抵抗曲線を重ねて動作点を読む
- 動作点の風量が必要風量を上回るか確認する
- 騒音・寿命・コストで最終判断する
P-Q曲線が非公開のモデルもありますが、当社では主要モデルの曲線データをご提供できます。条件をお知らせいただければ動作点の概算も行います:お問い合わせ。
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